カモメの背を見ながら⑲

追想

夜が明け、乗船から三週間目を迎えた。いつものように携帯のアラームに仕方なく起き上がると、喉は痛いし頭が痛い。風邪を引いたようだった。そんなぼくのことを見かねて、オオタニさんが風邪薬をくれる。その成分の影響か今日は半日、頭にも身体にもキレがない。右奥の下の歯茎も痛い。疲労がピークだった。

 

今夜の船員用の夕食メニューの一つは、肉じゃがのようだった。

昼過ぎに中華包丁のKが、ピーラーでじゃが芋の皮を剥いている。その幾つかのじゃが芋には、黒い芽の部分があった。「ここで、芽をきれいに取る、プロのテクニック出るか?ついに中華包丁お出ましか?」と期待し、ぼくはKから目が離せない。

だがKは、シュッシュッシュッという音と共に、ピーラーでそのままじゃが芋を無理やり削りに削り、芽の部分を取った。一部分だけ大きく不細工に切り取られ、小さくいびつな形になったじゃが芋達が、水を張った業務用のステンレスボウルの中に悲し気に並ぶ。少しがっかりした。

 

「お前は米さえ焚いときゃいいんだよ!このクソ役立たずが!」

 

相変わらず厚岸の彼はKにいじめられている。新しい仕事を教えないというやり方だ。これは彼あとひと月も持たないんじゃないか、と切実に思ったがここでKに意見する筋合いはない。

 

そんな中、ぼくとオオタニさんは船長に呼ばれることとなった。ここで仕事をした記念にブリッジ、つまり操舵室を見せてあげるということだった。

もうすぐこの仕事にも、終わりが近づいてきたのであった。

 

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