ホテルニュー子宝の布団の上で愛を叫ぶ

つれづれ

摩周湖のやや近くの温泉街にホテルニューオータニではなく、ホテルニュー子宝はあった。

「子宝に恵まれやすくなる」という曰くつきの泉質が自慢の温泉宿であった。別に自身が不妊症に悩んでいたり子供が欲しかったわけではない。タロット占い師時代に武者修行の旅の一環で立ち寄っただけだ。駅前や繁華街で「タロット占い500円」と書いたホワイトボードを掲げ行きずりの人たちや、宿で出会った人とセッションを行っていた。

札幌に住んでいたのでそこから釧路、網走、知床などを経由しての最終日である。

 

コダカラ温泉につかりひと段落した後、マッサージを呼ぶことにした。連日の長距離運転でとても腰が痛い。布団に横たわりしばらくすると若めの女性がやってきた。20才代後半だろう。容姿も普通。オッサンとしては悪い気はしない。

 

部屋に入ってくるなり彼女は

「うわああああああああ!この部屋めっちゃ空気が澄んでいますね!!」

とハイテンションでのたまう。

「なんだか、あの辺から清浄なエネルギーを感じます!!!」

キャリーバックの方を指さしている。

「ああ、あの中にタロットカードが入ってるからかな!?」

「それです!!!!それに違いありません!!!!!タロットの精がいそうです!!!!!!」

駆け出しの占い師としては悪い気はしない。決して。

 

うつ伏せになり、マッサージを受ける。初めて会った妙齢の女性と密室で二人きり、しかもボディータッチをしてもらえるのである。男性としては悪い気はしない。決して。

だが我々がマッサージその間ずっといやらしいことを考えているかと言えばそうではない。知床をめぐってきて感動したなどの話しをしてマッサージ師さんを和ませようなどと考えたりもするのである。たまに。

そうこうしているうちに彼女は肩甲骨当たりをグイグイ押してくる。一生懸命である。人として悪い気はしない。決して。

施術も悦に入ってきたところで、身の上話が始まる。

 

元々東京人であった彼女はウツで薬漬けになったのをきっかけに、療養のためこちらに移住してきたのだという。そして長年の地域住民とのふれあいが実り今では知床の秘境の奥の奥、本来は人が入れない場所にも入れる身分を勝ち得たのだという。

 

「お客さん、知床でクマを見ましたか!?そこでは人とクマが共生していてクマの楽園なんです!」

 

「見てないけれどさあ、人とか食うんじゃないの!?」

調子が上がりグイグイ押す彼女の指が背中に食い込んで痛くなってきた。

「クマはそんなことしません!!でもよく遊んでくれます!!!」

前にクマと戦った格闘家いたよな・・・ヒクソンだったっけ、力道山だったっけ、高田馬場だったっけ・・・いててて。

グイグイグイグイと更に強めの施術が続く。痛い。痛すぎる。だけど一生懸命さにほだされケチをつけるのも憚られる。彼女のペースに抵抗するという発想も無くなり、ひたすら苦痛に耐えつつなされるがままである。

その秘境では金太郎のようにクマに乗って遊んだり、相撲もとることがあるという。

 

「おにいさん、クマと相撲するときのコツって知ってます!?」

「さあ、何だろうね、おせーて。」

「決して引いてはいけないのです。押すだけです。引くと、爪で引っかかれますから。クマの爪って痛いのです!!!!!!」

 

いやいやいやいや!!!!!!??????いてててててててててえええええええええ!!!!!!

 

翌朝起きてみると体中が、たぶんクマの爪に引っかかれたくらいに痛かった。朝の子宝温泉に浸かりチェックアウトし、帰路についたのだった。決して悪い気はしていなかった。

その後、ホテルニュー子宝は廃業してしまった。色んな意味で残念である。

 

この記事を書いた人
オジマ マジオ

ずぼらセラピー提唱者。あかるい挫折研究室の室長。コーチング歴10年。タロット占い師歴10年。スピ歴30年。就職すれば出世頭、経営すれば借金地獄、結婚すればバツ2つ。栄光も挫折も過多な経歴をもつがそんな人生を愛す。有料にて個人セッション受付中。得意ジャンルは人間関係、お金、目標達成など。敏感かつ動揺しがちないわゆるHSP

オジマ マジオをフォローする
つれづれ
オジマ マジオをフォローする

コメント