なんくるなかった⑥

追想

その日から10年ほど過ぎた頃、オレ達は都内のはずれで西武多摩川線に乗っていた。とても都内の鉄道路線とは思えないほど閑散としている。三両編成なのに。

ドア付近に立って揺られ、うつむき加減に黒目がちな瞳を合わせてくるミーヤ。話しかけてくるときにいつも眉毛をぎゅっと上げる仕草をするのが、とてもキュートだった。

「ねえ、初めて会ったとき、ほんと失礼な奴だと思ったわよ。振り向きざまにオレのこと好きだろ、って。」

「そのころから運命は始まってたのさ。」

「あんたって、ほんとバカねえ。」

 

オレはミーヤの「ほんとバカねえ」が大好きだった。普段のおしとやかな彼女からすると、オレにしかそういった失礼な口のきき方はしない。「ほんとバカねえ」と言われるたびにすべてが許されるような気になってくる。

「ねえ、あのときどうしてしなかったの。若い体を抱けるチャンスだったのにねえ。」

 

あの夜のことは、まだ鮮明に覚えている。オレは車窓から見える武蔵野公園の薄い緑色の芝生を見つめ、思いを巡らせた。本州の寒い冬が近づきつつあった。

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