なんくるなかった⑧

追想

「ねえ、これからあなたの家に行っていいかしら?」

しばらく国道329を北上し長田交差点まで車を走らせると、覚悟を決めたように言ってきたミーヤであった。酔いのせいなのか、何とも大胆な提案であった。

「いいよ。」

オレも覚悟決めたかのように、少々厳かに応えたのであった。

 

それにしても、生ぬるい深夜だった。アパートの前の小さな路地には、路上駐車が溢れていた。

「ここに停めていいかな?・・。」

「うん、いいね・・。」

いざ自宅を目の前にすると喉の管がキュッと閉じてしまって、うまく声が出なかった。

 

かろうじて1台だけ停められるスペースに車をあてがおうと、ミーヤはシフトレバーをRに入れる。半クラッチでエンジンを少しだけふかし、HONDAシビックは後退を始める。

倒した助手席から、彼女のその一連の動作をかいま見ていた。ハンドルを持つ左の手が見える。少し震えている。

 

これは果たして、以前から彼女が望んでいたことなのだろうか。いつも飲み会の最後までいる連中は4、5人で、そのお決まりのメンバーのうちの二人が我々だった。

 

「あんたって、本当にバカよねえ」

ふざけるたびに、真面目な話をするたびに、議論を交わすたびに、彼女はそう言った。気付くといつも近くに座って、何らかの反応してくれる。オレは陽気なふるまいをするほうだったが、まったく対照的に大人しいミーヤ。その彼女がその夜だけは、普段とは違って何か浮足立っているように見えた。

 

まるで、高価な骨董品を虫眼鏡で覗いている鑑定士のようにハンドルを慎重にゆっくり回しながら、車を停めエンジンが止まった。イグニッションキーが揺れた。

一瞬の静粛の間にこれからの展開を想像し、オレはゴクリと唾を飲んだ。

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MAZIO

人生わけわかんなくなった人専用メンタルセラピスト・コーチ。タロット使い。魔女系女子御用達。お笑いルポライター。狂人ドットコム記者。つまりお笑い魔道士マルフィルス。

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