わりと大きめのケージの中に、子豚を飼っている。
雨が過ぎ去ったある晴れた朝に、豚とふたりで公園に出かけた。芝生は遠目には見えない露をまとって、キラキラ輝いていた。
ぼくは彼のことを不憫に思い、ケージの外に出してみることにした。
そして彼とぼくは、濡れた芝生の上に転がって顔をつきあわせ、微笑みあった。
彼の垂れ目が愛おしかった。唇を近づける。彼の息とぼくの息がまじわる。豚の顔というものに限らず、横たえた顔を近距離で見つめると、普段とは趣が変わる。なんとも和む表情である。
すると彼はなんの何の前触れもなく立ち上がり、脱兎のごとき速さで道路の向こうの林の中に消えていった。豚なのに脱兎のようだふふ、と思いながら彼の後姿を見つめた。
ぼくは芝の露が乾いてしまうまで待ってみたが、なんとなくもう彼は帰ってこない気がした。ぼくは空っぽのケージを持ち、よそに向かって歩き出した。そのとき彼は突如林の中から現れ、愛らしげにこちらに向かって全力で走り寄ってきた。足元に来た彼を抱き上げた。
ふと彼の脚を一瞥すると、豚にしては似つかわしくない、鋭く伸びた爪があった。ブヒブヒ鼻を鳴らしている彼が可愛くてたまらないのだが、爪のことがものすごく危険なものに想えた。彼の愛らしさより、爪の鋭利さの方に注意をやっていた。
そんな夢を見つつ目覚めたが、気にせずまた寝入った。
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