カモメの背を見ながら⑦

追想

アラームをセットしていた携帯電話が震え、目を覚ます。

「よく眠れました?」

「ああ。揺れがひどかったけれどね。あまりの揺れに、背中が指圧されているような感じだったよ。でもやっぱ酒を飲むと違うね。眠れる。」

「ぼくは逆ですね。久しぶりに一本吸ったら、眠れなかったっす。」

「ニコチンは覚醒するからねえ。眠れなかったらいつでも冷蔵庫に入ってるビール、好きなだけ飲んでいいよ。」

オオタニさんは自分のことを「軽いアル中」だと言う。他人のお金を預かって運用するというのはすごいプレッシャーで、飲まないともう寝られない体質になっているのだった。

 

そんなオオタニさんも、この「休暇」期間中は酒を飲まないと決めていた。しかしそんな禁を一日で破り、昨夜は「のどごし生」の缶を3つほど空けていた。

そしてぼくも今回の洋上の仕事では禁煙するつもりが、やはり一日で元の木阿弥に戻っていた。ふたりとも似たようなものだった。

 

まだ明けぬ水平線を横目に見ながら二人はメスルームの掃除に向かう。ここは小さなレストランの体をなしていて、だいたい70人の船乗りたちが交代で毎日食事を取る場所だ。

つまり「メスルーム」とは洋上の社員食堂、と言ってもいいだろう。掃除機、モップ掛け、テーブルを拭いて、醤油やソースなどの調味料、そして箸などの補充を行う。

7時を過ぎると船乗りたちが食堂に入ってくる。味噌汁、ごはん、焼き魚、スクランブルエッグ、ソーセージ、海苔、ひじきなどの煮物、漬物、パンなどのありふれたメニューがビュッフェスタイルで用意されている。

そうこうしているうちに今度は乗船客のモーニングが始まる。9時前にその皿洗いが終わる。

 

汗をかいたふたりは一緒に朝食にありつく。安物のマーガリンとジャムを、トーストした食パンに塗って食べる。ひと仕事終えた後の洋上の朝食は、やけにうまい。

普段はトランス脂肪酸がどうたらと言ってはばからないのだが、ほとんど所持金ゼロの自分にはどんな食事だってありがたいのであった。

 

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