連載

追想

なんくるなかった⑧

「ねえ、これからあなたの家に行っていいかしら?」 しばらく国道329を北上し長田交差点まで車を走らせると、覚悟を決めたように言ってきたミーヤであった。酔いのせいなのか、何とも大胆な提案であった。 「いいよ。」 オレも覚悟決...
追想

なんくるなかった⑦

その日は珍しく、1次会で飲み会が終わった。宜野湾の豊年満作という居酒屋で三々五々、だいたいの連中は自分の車を運転で帰る。当時はそれほど飲酒運転に関しては世間の目もさほど厳しくはなかったし、特にオキナワはそうだった。 クラスの飲...
追想

なんくるなかった⑥

その日から10年ほど過ぎた頃、オレ達は都内のはずれで西武多摩川線に乗っていた。とても都内の鉄道路線とは思えないほど閑散としている。三両編成なのに。 ドア付近に立って揺られ、うつむき加減に黒目がちな瞳を合わせてくるミーヤ。話しかけてくる...
追想

なんくるなかった⑤

そんな嫌われ者のリア充ツキノだったが、オレも実はクラスではそれなりにオンナノコに囲まれた生活をしていた。何せ文系なのだ。 ただそのことをアパートに帰って口にしなかったという差があっただけだ。本当に嫌なヤツは、ツキノではなくオレだったの...
追想

なんくるなかった④

「ねえ、アーニー、第二外国語はどうするつもり?」 オレはアパートの連中から「アーニー」と呼ばれていた。 現役入学のツキノが2つ上のオレのことを「兄い(あにい)」と呼んだのが始まりで、そのうちそれが変化し、アパートの全員が...
追想

なんくるなかった③

ここにやってきてびっくりしたのは、みな開放的で人懐っこいということだった。本州から来た人も含め。 オキナワの大学というと地元の人が多そうなイメージがあるかもしれないが、県内と県外の学生比率はだいたい半分半分で、県外生のほとんどは九州の...
追想

なんくるなかった②

ヒラタさんのブリーフから滴る「一番搾り」を浴びる二年ほど前、オキナワにやってきた。 その前は関西のとある私立大学に籍を置いていた。もともと中学も高校もサボりがちだったけれど、親元を離れ自由になったことを境にその性分はさらに加速...
追想

なんくるなかった

いわゆる古めかしい昭和のアパートの、共用玄関口にオレ達は居た。 そこは3畳くらいの広さの板の間になっており、土間には下駄やスニーカーやライダーブーツなどが雑然と並ぶ。 そこにヒラタさんが帰ってきた。白のタンクトップの肩口にはリュック...
追想

カモメの背を見ながら㉒

ほんとうは、君が現実だと思っているものは夢で、君が夢だと思っているものが現実なんだ。 バックが書いた「イリュージョン」に、確かこんなような事が書いてあった。20歳の頃から妙にこの文句が好きで、座右の銘じゃないけれどこの言葉を心の中の大...
追想

カモメの背を見ながら㉑

夕刻。操舵室見学の余韻もそこそこに、客のディナータイムが始まった。相変わらず喉が痛む。右奥歯もしくしく痛む。そんなぼくの体調なぞにはお構いなしに汚れた食器は押し寄せ、皿洗いに没頭せざるを得ない。例の食器洗浄機のコンベアに食器を流す。オオタニ...
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